シリーズ「グッド派遣レポート」

派遣スタッフへの休業補償を実現した意志の力―Man to Man株式会社

Man to Man株式会社のここがグッド!

  • 新型コロナウイルス影響下で給料100%補償
  • 「ありがとう」がモチベーション
  • “自責”の思考力による全員経営

私たちが生きる世の中は、クイズのように正解もなければ、ゲームのようにゴールもない。新型コロナウイルス感染症という経験したことのない状況の中で、どのように生きていくのか?世界中で、国や自治体、会社、人は模索を繰り返しています。

人材サービス会社であるMantoMan株式会社は、新型コロナウイルス感染拡大を見込み、2月17日という異例の早さで全社員の行動制限を発令しました。当時、日本での感染の広がりを示すほとんどの統計が2月17日を起点にしていることから、この早期決断をご理解いただけるでしょうか。

決定した制限内容は、前後4~5時間の時差出勤、セミナーや研修への参加や不要不急の出張の禁止、そして同社が大切に考える飲み会の禁止です。それは、取締役社長手島雄一さんの「社内から感染者を出さない」との決意でした。正体の見えないウイルスへの冷静な対応で、愛知県を中心に全国に拠点を持つ同社では、2020年4月末時点で感染者はありません。

対応はそれだけではありませんでした。4月には、派遣先企業の一部で休業となり、仕事の減少する派遣スタッフが現れはじめました。これに対して行ったのは、派遣スタッフの給料100%補償でした。

労働基準法によると、派遣先企業が休業する場合、スタッフに対して、派遣元が平均賃金の60%以上(※)の休業手当を支払うことと定められています。これは労働者の生活を守るため。ですが同社では、本来働くはずであった労働時間100%分を支払うことを決めたのです。社員を守り、派遣スタッフを守る、これらの経営判断の背景には何があるのか?オンラインにてお話を伺いました。

(※平均賃金…この場合、一人ひとりについて、直近3か月の給料を平均した金額をいいます。)

リモート

「おまえたちはどうしたい?」からはじまった

社員の行動自粛に加え、派遣先の稼働停止。想定していたとはいえ、経営を圧迫する事態です。同社に潤沢な資金の余裕があるのかといえば、そうではないと言います。経営派遣先の休業にともない、手島さんは現場を統括するマネージャーに問いました。「おまえたちはどうしたい?」返ってきた答えは「もしできることなら、派遣スタッフにお給料を100%支払ってあげたい」でした。

社長が社員に問うシーンは、同社では日常のこと。社員一人ひとりに、どうしたいか考えてもらうようにしています。

100%払いたいというなら、どうすれば払えるかを一緒に考えるのが同社のやり方。国の支援策(新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特別措置)によって、企業に対し休業手当の60%(当時)を補償されることが決まりました。足りない金額は社員と工面し、目途を立てていったそうです。

誠実を貫き、得られてきた信頼

驚いたのは、派遣先企業に対し、事情を説明して少しでも補償金額を協力してもらえないかを交渉に伺ったということ。顧客に対して、そのようなお願いをできるものでしょうか…。

実は、同社には貫き通してきたことがあります。それは「法律を守り、まっとうに経営すること」。ごく当然のことのようですが、設立当初、周囲には法の目をくぐって少しでも利益を上げようとする派遣会社が多く存在したといいます。そんな中で同社は正当に労働者を派遣することを選んだのでした。それは“人材派遣”という事業が、労働者にとっても企業にとっても喜ばれる素晴らしい仕組みであると考えていたからでした。

他社と価格競争をするのではなく、労働者を守りながら企業活動に貢献することを、企業に対して説明しながら、誠実に信頼を積み重ねてきたのでした。その結果、社員にも自信と誇りが芽生え、企業や金融機関からも信用を得て、今に至っているといいます。

今回も社員のみなさんが1軒1軒たずね、ていねいにお話しし、いくつかの企業から理解いただき、応じてくださったそうです。長きにわたって貫いてきた正直な姿勢そのもののように思えます。

社員同士のオンライン飲み会
▲社員同士のオンライン飲み会

「ありがとう」のために何ができるか

「うちの社是は『ありがとう』で始まるように、社員たちはありがとうと言われることが嬉しい」と手島さん。同社では、派遣スタッフからありがとうと言われるために、そして企業からありがとうと言われるためにどうすればよいかを考えることが日常にあるそう。

今回発せられた「派遣スタッフに100%払いたい」との意見は、実は同社にとって想定内、むしろ「うちらしい」エピソードなのだそうです。実現するために自分たちもできることやろうと、身の回りの経費を徹底的に見直すことや、また企業に人材採用のしかたをコンサルティング提案するなど、積極的に働きかけを行ったそうです。自宅で学んだり、リサーチしたり、それぞれに過ごす社員から「今、このエリアで人材が足りていないので、電話提案したい」などと“出勤申請”が挙がってくるそうです。

「とくに各拠点のマネージャークラスの社員には、リーマンショックの苦しい経験があります。彼らは、派遣スタッフたちが働いてくれて僕らがいるのだと、仕事があることの喜びを十分に感じています。だからなおさら派遣スタッフに支払ってあげたいと思うようです。会社としては、そんな社員のやりたいことを実現するために、できる努力はしようっていう考え方です」

社員とともに作ったという社是
▲社員とともに作ったという社是

自責で生きる

自社の経営方針について、常日頃から「一人で決めない」という手島さん。「おまえはどうしたいの?」と社員に聞くことを習慣にしながら、ともに運営していく姿勢です。「誰かに言われたから、国が言うから、という“他責”でなく、自分で考え、納得して答えを出す“自責”であってほしい。社長が言うから、なんていうのは論外」例えば4月に入社した新入社員のみなさんは、早々にリモートワークとなってしまい、自宅で何をどう頑張ればいいかわからずに不安な様子です。これを聞いた手島さんは「それでいい。自責で生きる練習になる」ですって!

とはいえ、社長が何についてどう考えているのかを、常に社内SNSで発言しているそうです。ただし発信するのみでリアクションやディスカッションは不要。社員が、自分はどう考えてどう動くかを考える材料にすぎません。新型コロナウイルスの感染拡大と影響についても、手島さんの見通しを早くから伝え続けていたそうです。

なぜ同社では、社員に自責を求めるのでしょうか?「自分で決めて自分で動くことは、結果がどうあれ後悔しないですむ。反省はあっても不安はない」といいます。自分の人生は、みずから責任を持とうというお考え。手島さんが早々に決めた行動制限は、社員の命を守りたい手島さん自身の意志でした。社員に伝える時も、自分の意志であることを伝えていました。「もし外出しておまえだけでなく家族にも感染させたら、おまえも後悔するだろうし、俺も後悔するんだよ」心からの言葉がぐっと響いてきます。これが自責なのだと身をもって教えてくれます。

お話を伺っていると、自分たちで考えながら実行していく同社の文化は、非常時でも平常時でも、どんなときでも変わりないことが見えてきます。周囲から驚かれるような決断も、同社にとってみれば自然なこと。「4月はこのように対応したけれど、これからはどうなるかわからない」先の見えない中でも、社員のみなさんと意志を共有しながら、『ありがとう』をいただくために誠実に切り拓いていかれる姿が見えるようです。

後記)この取材の後、5月についても同様の対応を決断されました。

新入社員ミーティング
▲新入社員ミーティング

Interviewee

取締役社長 手島 雄一 氏

企業概要

Man to Man株式会社

  • 設立: 2001年2月28日
  • 代表者: 取締役社長 手島 雄一
  • 本社所在地:〒460-0007 愛知県名古屋市中区新栄1丁目7番7号 RTセンターステージビル
  • オフィシャルサイト https://www.man-to-man-g.com/index.html

事業内容

  • 有料職業紹介事業(23-ユ-301086)
  • 労働者派遣事業(派23-301331)
  • 再就職支援事業
  • 生産・物流業務のアウトソーシング事業
  • コンサルティング事業

この記事の著者

AsanoAkira

AsanoAkira

大学卒業後、大手住宅メーカーに3年勤務したあと、さまざまな社会を経験したく派遣社員として6社を渡り歩く。景気悪化による失業を経験したことも。6社目の経営コンサルタント会社で一般事務からコンテンツ制作業務に転身。以降、直雇用での約12年間は、企業経営の現場で経営事例などのべ200人以上の取材執筆、編集に携わり、「経営は人。人生そのもの」と知る。現在はライフコーチなどを通じて、100年人生を思い通りに動かしたい人たちと未来創りに参画している。
詳しくは「ライター紹介」ページをご覧ください。

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