シリーズ「グッド派遣レポート」

非常時の労働者を守り、地域に意義ある人財派遣を―ヒューコムエンジニアリング株式会社

ヒューコムエンジニアリング株式会社のここがグッド!

  • 新型コロナウイルスに即決の一時金支給
  • いざという時にも雇用を守る経営の基礎体力
  • 人材サービス会社の存在意義

2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう緊急事態宣言が全都道府県に発令され、各地で対応が迫られる中、1通のリリース文書が目に入りました。

「新型コロナウイルス対策に関する特別一時金の支給について」と発表されたのは、山梨県の人材サービス会である、ヒューコムエンジニアリング株式会社です。

内容は、同社の派遣・請負社員のみなさんに向けて。5月分の給与支払日に在職している、時間給で働く派遣・契約社員に対し、フルタイム契約社員には2万円、パートタイム契約社員には1万円を、5月の給与に上乗せして支給するというものでした。

https://www.hucom-eng.co.jp/wp-content/uploads/2016/07/23727192ba3bc8e7ed45a7becb2f3b94.pdf
(2020年4月20日 同社リリース)

感染拡大とともに経済の停滞が懸念され、国民に不安が広がる中、早々に発表された同社の特別支給策には、派遣社員への想いが伺えました。まだ国の特別定額給付金も定まらない頃でした。このような決断をされたのか?なぜ今、決断できたのか?代表取締役の出井智将さんに、オンラインでお話しを伺いました。

「自社としてできることをいち早く」

ゴールデンウィークによって勤務日数が減る5月は、時間給で働く労働者にとって月給の減少がまぬがれない月です。そのうえ今年は、新型コロナウイルスによって先行きも見えないこの状況下で、ゴールデンウィーク中に副業やアルバイトに外出する派遣社員が出てくるかもしれない。「派遣社員のみなさんにいち早く安心してもらいたかった」という出井さん。外出するな、ではなく、彼らの不安な心中を察し、自社として彼らに対しできることはなにか?を考え、決断したといいます。

社内の共有ミーティングで提案すると、社員からは「ぜひやってください」の声。決断に時間はかからなかったといいます。「これからのことはまったくわかりません。どこまで頑張れるかわからないですが、まったく何もしないということでは派遣社員たちは不安になります。それを少しでもやわらげられたら」と話す出井さん。見通しが見えない中まずは踏み切った一時金支給、スタッフの皆さんからは、「5月は通常でも出勤日数が少ないので助かります。ありがとうございます」「国の支給が遅れている中でも、迅速に我々の事を考え対応していただきありがとうございます」と喜びの声が多く聞かれたそうです。

労働者の雇用を守るために

自社の経営もどうなるか分からない状況の中、即決できた背景には何かあるのでしょうか?

「創業当初から、何かあっても安心して働いていられる環境を念頭におきながら経営してきました。1~2年利益が出なくても耐えうるような体制にしておこうと。すぐに労働者を解雇するようでは、雇用主として責任を果たせないと考えています」

人材サービス業界は、経済情勢や外部環境に大きく影響を受けます。ご自身の業界経験から、2003年の創業以来、常日頃から利益余剰金を残せる経営を行ってきたといいます。今回の一時金支給についても、非常時を想定して確保していた内部留保が財源となります。

「労働者の雇用を守るため、経営の基礎体力をつけてきた」と話す出井さん。どのように適正な利益を出し続けてきたのでしょうか?“人材を人財に育てる”同社は、派遣社員のキャリアアップ推進や、円滑に働き続けられるフォロー体制に注力し、労働者が安定して就業することによって、企業への質の高いサービス提供を行い、適正な対価をいただけているのです。同社は山梨県から事業エリアを広げることなく、地域密着で活性化に力を入れられています。山梨県の推計人口は810,933人(2020年1月1日現在)、「取引先は、実はそれほど多くはないのです」というとおり、地方の強みを活かし、フェイストゥーフェイスの距離感で深い信頼関係を築けているのです。

まず、働く人が安心して長く働けること

働いている人に気持ちよく働いてもらえることを第一に、雇用を守り、スキルを高めてもらうことによって、企業の要望に応える技術力を身につけることができます。独自の教育施設による、安全でけがのない実地教育と、座学による学び、そして現場リーダーや管理職に義務付けられる第一種衛生管理者の資格取得、クレーンの玉掛け資格やフォークリフト免許取得を会社負担するなど、働く人の人間的価値向上の意図が伺えます。

そして画一的な教育だけでなく大切にされているのは、一人ひとりのコミュニケーションです。同社では、モチベーションの上がらなかった人の目の色が変わり、表情の変化を多く見てこられました。どのように働きたいのか、どうなりたいのかを理解しあい、働き甲斐をもって働けるよう伴走するには、一人ひとりとのリアルなコミュニケーションが大事だといいます。今回の新型コロナウイルスでは、WEB対応の可能性を大きく広げましたが、「目の前の人のニーズや人となりを肌感覚で感じ取ることは、人にまつわる企業の強み」と出井さん。面接などでは画面上だけでなく会うことによってお互いを深く理解しあう大切さを貫かれています。今回の新型コロナウイルスによる労働者の不安をいち早くキャッチしたことにも、出井さんの日頃の姿勢が伺えます。


▲自社研修棟での作業研修

人材サービス業の存在意義とは

30年の業界経験を持ち、人材サービスの市場と業界の健全化に取り組むために業界団体の理事も務められた経歴を持つ出井さん。「なによりも、労働者の雇用を安定的に守ることが大事」と話します。江戸時代にはすでに存在していたという、長い歴史を持つ人材サービス業ですが、社会的価値のある良い会社とは、いざというときに労働者を守れる会社だといいます。そのためには企業から言われるがまま派遣するのでなく、企業に提案する立場であること。「人材サービスは、企業と労働者の間に存在するほうが両者の安心につながる、という意義がなければいけない」と話します。企業と労働者の双方の発展のためにあるのが、人材サービス業界の存在意義であると。
今回の特別一時金支給は、「派遣社員にとって満足ではないかもしれないけど、のちに『あの時に自分を守ってくれた』と思ってくれたらいい。今できることを頑張っていく」まず守るべきは労働者、そのうえで企業への質の高いサービス提供するという信念に基づいた決断であったことが伺えました。

※後記
記事公開直前に、政府から雇用調整助成金の拡充が発表されました。
これを受けて同社は、緊急事態宣言期間中に休業になった労働者に対し、平均賃金の100%の休業補償を決められたそうです。労働基準法では60%以上の支払いを命じていますが、これを上回る最大限の休業補償を行うことになります。

Interviewee


代表取締役 出井 智将 氏

企業概要

ヒューコムエンジニアリング株式会社

  • 設立: 2003年9月
  • 代表者:代表取締役 出井 智将 氏
  • 本社所在地:〒409-3851 山梨県中巨摩郡昭和町河西1232-1
  • オフィシャルサイト https://www.hucom-eng.co.jp/

事業内容

労働者派遣事業 有料職業紹介事業

この記事の著者

AsanoAkira

AsanoAkira

大学卒業後、大手住宅メーカーに3年勤務したあと、さまざまな社会を経験したく派遣社員として6社を渡り歩く。景気悪化による失業を経験したことも。6社目の経営コンサルタント会社で一般事務からコンテンツ制作業務に転身。以降、直雇用での約12年間は、企業経営の現場で経営事例などのべ200人以上の取材執筆、編集に携わり、「経営は人。人生そのもの」と知る。現在はライフコーチなどを通じて、100年人生を思い通りに動かしたい人たちと未来創りに参画している。
詳しくは「ライター紹介」ページをご覧ください。

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